メルセデスのある生活


文:喜多川 グラマロ
購入編
ああ、なんとでも言ってくれ。・・・半ば開き直りの心境である。
燃費はどうだい?狭くないかい?
ボクに言わせりゃぁ、すべてたいした問題じゃあない。
燃費だぁ?
駐車場代、高いGSでの洗車、高速道路料金に車検・・・
トータルで考えれば些細な問題だ。仮に2年間で10000km走行する平均的なサラリーマンが1Lあたり10km走るクルマに乗っているとガソリン代は1000L×102円(おおよそ)で10万円を少々上回る程度。1Lあたり6kmしか走らない大排気量車で1650L×102円で17万円程だからその差は7万円だ。こっちはユーザー車検で向こうが仮にディーラーで車検をうけりゃ簡単にひっくり返っちまうぞ。
 まあいい。経済的な要素を並べてもメルセデスを無理に購入した自分を正当化するエクスキューズに聞こえるだけだ・・・。

無理して買ったんじゃない。好きだから・・・
「これでいいのだ!」
そう、これでいいのだ。バカボンのパパは実にスバラシイ名言をはいたものだと思う。
オプティミスティックな響きの中にも信念を感じさせる力強い言葉を。
絶対に後悔するもんか!
こんな事を考えること自体かなりビビっている証拠である。
 それにしてもこの形、なんと美しいことだろう。年末年始、びっしり通った駐車場。何度観ても飽きない形がそこある。
冷たい金属で出来たドアノブを引くと見事な破裂音を伴ないながら開く扉。一瞬のセルで目覚めるV8、5000ccのエンジン。車外からもハッキリとわかるほどエンジン音が高くなる冷水時。水温が40度を超えるとアイドリングがぐっと低くなる。
 エンジンは温まった。あとはサスやトルコンにゆっくりと負荷をかけて車体全体を揺り覚ますのだ。あちらこちらから機械の悲鳴が聞こえる。ギシギシッ・・・
しかしボディーだけはミシリともいわない剛健な感じが、しっかりと伝わる。
 美しく保たれた車内にいると、とても来年20歳を迎えるとは思えない。革の匂いとなんともいえない木の香り・・・までは流石にしないが、うっかり剥がしてしまった灰皿の表面板(ウォールナット)が恐ろしく分厚く思わず木の香を嗅ごうとしてしまった程だ。

 こいつが朝起きても、寝る時もボクから直線でわずか4mくらいのところにある。
毎日、所有満足感を味わうことが出来るのだ。
いつものように買い物に出かける。決して焦ることなくゆったりと走ることが出来る。そしてゆったりとした場所に駐車する。以前のようにエレベータの近くを陣取ろうとギラギラしない自分がそこにいるのである。
・・・オトナじゃん。
 イライラしなくなった。もっともあわてて運転できるような代物ではないので自然とボクをいつも冷静にさせるのだ。
このことは精神衛生上非常に有意義なことであり、どちらかというと財前吾朗系のボクが最近サトミ先生なのである。これも自動車の価格に含まれているのだから当たり前の新車を買うよりもいろいろな意味でお買い得である。万が一、実家から人が来て大勢で乗る必要があれば、どの道5人乗りでは間に合わないのだからレンタカーを借りれば済む話である。だいたい今時のレンタカーは安い。
 ボディーカラーであるが没個性的な日本の自動車事情において少々派手でも良しとした。・・・というかむしろ車くらいは派手に遊んでみたかったのでシルバーは避けた。
 
ヤナセで幌の点検を受けた時に初老のメカニックが眼を細めて「私が若い時は随分ありましたけど・・・いや、なつかしい・・・」と。幌も限りなく新品の状態であり車自体も大変綺麗にしてあったので「私がちょっと出しますよ」と30mほど運転してもらった。やおら、大きなファクトリーの出口に車を置き「さぁ、どうぞ」と扉を開けてくれた。ボクは支払いが済んでいないとジェスチャーしたがその初老のメカニックは右目で不器用に大げさなウィンクをして車を外に導き出すように大きく手をあげた。


 せっかくSLに備わった機能なのだから・・・
 R107オーナー達が憧れるマイ・ガレージの図。
東京に住むサラリーマンにとっては、「ってやんで〜バーロー」の図ともいえる。
中に電動ホイスト(小型クレーンのような物)など備え、一人でオープントップにするなんザ〜男のロマンである。
しかしそんな人間は超レアだ!と断言したい。
 ボクは渋谷まで20分程度の駅から徒歩数分のところに家があるだけで我ながらたいしたものだと思いたい。自分の実力から考えると上出来である。あれが無くっても・・・である。アレとは、そうガレージである。
 ガレージの中には、たくさんの高級工具。それらが綺麗に収まる真っ赤なキャビネットに囲まれて過ごす・・・これを至福といわずしてなんと表現できるだろう。
 ボクにはもう1つマイ・スタジオというこれまたゴージャスな夢がある。両方は無理だとしてもせめて1つだけは・・・いやいや無理である。思わず1つは叶えたいと言いたいところだが、いわゆる「宝くじモノ」の贅沢な夢である。スタジオは一人では楽しめないがガレージは一人でも十分に楽しいところが良い。しかし結局は実現困難である。
 さて、そんなガレージオーナーを横目で睨みながら一人オープンにする方法は無いのか・・・ありとあらゆる可能性を模索したが、簡易電動ホイストをベランダからつるすのが最も現実的でありコストも激安であると思われた。しかしこれはあまりに美観を損ねるという細君の警告を受け入れ風の強いこの日、伝説の「一人ホイスト」なる荒技にチャレンジした次第である。107オーナーが集うBBSでその存在は聞いていたがまさか本当に出来るとは最初、思ってはいなかった。
 伝説の荒技・・・
結構いけるものである。しかし力技で最終的には簡単に出来たが、そこに行き着く準備や施行にはかなり勇気のいる事である。詳しくはここに記載しないがこれで憧れの映像に近づける。僕の中のSLの映像は雑誌の中でyazawaや篠塚(巨人)が真っ赤なSLのOPENに載っていたシーンである。


さて、このメルセデスだが・・・燃費を気にする人は乗るわけがないのだが、あえてここに燃費を公表する。
この5000ccというエンジンは低回転での巨大なトルクを利用してほとんど回転が上がらない。したがってアイドリングしていようが40km/hで街中を流していようが燃料の消費量にあまり変化はないのだろう。すなわち高速道路を使うような走りの場合10km/L程の燃費を示すがひとたびご近所走行するとめまいがするほど燃費が悪い。最悪の状態でおよそ2.5km/Lといったところだ。ただ、タンクがデカイためにあまり気にならないが・・・。
では速いのか?これは速い。と言えるだろう。
いままでもなかなか速めのエンジンに乗っていた。日産のRB25DEである。GT-Rの若干ショートストロークエンジンからターボを取っただけであるから決して鈍重なエンジンではないのだが比較するとほぼ同等である。RX-8のマニュアルと比較すると出足は流石にゆっくりだが高速領域の不満はない。それどころかアウトバーン領域においてはむしろスムーズで、まだまだ加速しそうな勢いである。東名で捕まったらまた免許を取り直さなければならないだろうから無茶はしないがその気になれば「のぞみ」モードが可能である。

1月29日
じっくりと眺めてみた。そして飽きないことに気づいたのだ。何分くらいが経過しただろうか・・・ちょっと横から斜めから後ろから前から・・・とまるで畑中陽子を彷彿とさせるようにしばし眺めた。
 美しい。本当に美しい車である。フェラーリ328までがもっていた優雅なたたずまいがそこにはある。低く長い真っ赤なボディーは平べったくて、そのくせ細部が武骨なのである。下を覗き込むとドライブシャフト中央なのかマフラーなのかわからないがガードがある。しかしそのクリアランスには驚いた。タバコの箱が縦には入らないであろう程の低さである。ステアリングとメーター、シートとフロントウィンドの位置関係は964までのポルシェ911によく似ている。

2月7日
なんと今日はじめて明るいところでじっくりと乗り回してみた。暗いと綺麗に見える内装は昼間見ると・・・やっぱり綺麗だった。無傷だと思った革シートにはわずかな引掻き傷が二本、それも座面ではなく運転席の左肩付近にあるだけである。あまりに綺麗なのでいろいろといじくっているうちに灰皿を壊してしまった(トホホ・・・)。しかし、「超強力」という両面テープのおかげですっかりわからなくなったのだった。
ボクはどうも昔からいじくり壊すタイプなので以後気をつけたい。
さて、今日は日中に用事の隙間をつかってジェームズなるカーショップへ行ってみた。ここはスーパーオートバックスと並んで外車ウェルカムのチェーン店であるが、技術はまあまあである。まずはETCの移植を考えたのだが、昨今の5000円還元制度のおかげで登録がガンガンに込み合ってしまい、一週間は書き込み不可能状態なのだ。そこでSLに弱点であるオーディオの強化に着手したわけである。
カセットしか聴けないオーディオは流石に寂しいのでアゼストのCDプレーヤーを搭載してみた。美観を損ねない為に出来るだけシンプルな黒っぽいデザインを探し(要は安い事)それに決めた。まあ音質は「どってことない」がCDというメディアが使える利便性はデカイのである。なんたってカセットテープ自体がほとんどお払い箱状態であるので仕方が無い。僕の友人はT○Kのカセット部門でマーケティングを担当しておりシュリンクしていく市場と戦っているのだが・・・右肩下がりの市場を恨んでもしょうがない(^^;
5000ccのエンジンは力強くていいのだが、強烈にオフセットされた運転席は後輪のすぐ前にある。この位置関係に慣れるまでかなりの時間を要したが今日あたりは若干スムーズに走れるようになった。大満足である。
ところでベンツに乗っているとGSの対応がいいなんて話を聞いたことがある。確かに8年ほど前にBMWに載っていた頃、経験したことがあるが今となっては、どうなのだろう?早速GSへ行ってみたのだがセルフGSだったので・・・結局はいつもと同じである。と、ここまではビックリもしないが無理やり入れたガソリンはタンクの2/3程度残量があったのだが・・・しっかり40Lも入った!こいつはスッカラカンでいったい何L入るのだろう?100L近く入る計算である。

今日は祭日である。
あまり乗りなれていないボクにとって晴れの日の休日は、うっしっし状態のテストランにびったりなのである。デジカメもって港北ニュータウンへ出かけることにした。人目を気にしながら撮影をしているうちに気づいた!以前から行ってみたかったショップがある事を。
この日は旧型Benzの扱いで有名な310へ足を運んでみた。
早速、午前中のうちに閑静な世田谷の住宅街へ到着。少し気になっている足回りからのギシギシ音について診断してもらった。品のいい初老のオーナーと思しき紳士が「コーヒーでも飲んで待っていてください。」とおっしゃるのでじっと店で愛車の帰りを待つ。そこへ恐らくはオーナー婦人であろうこれまた品のいい初老の女性が現れた。
 「あら!お若い・・・」
ボクの顔を見るなりついて出た言葉はこのようなものだった。間髪いれず「いらっしゃい」と深々と頭を下げてくださった。古いSLで出かける社長をみて頭の中には店舗内にいる50歳代の客人をイメージしたに違いない。
オーナーと思しき紳士は5分程度で戻ってきた。
「非常に程度がいいですね。綺麗にお乗りで・・・」
確かにオーバーホールするのはいいがどうせならブッシュやマウントも含めてやってしまったほうが工賃が無駄にならなくていいとの事。がんばってお金貯めなくてもしばらくは、「まったく問題ないですからご安心なさい」・・・というコメントだった。
ロイヤルコペンハーゲンの高級な器に入ったコーヒーを堪能し20分ほどで失礼した。また、少しエンジンを回しなさいというアドヴァイスをいただいたので帰路は東京インターから一気に厚木方面へ回し気味で30分走り続けた。厚木からは246でリターンしたのだが驚いたことにエンジンが本当に滑らかになった。そして燃費も前回より遥に良いのだ。これは246を走っていて明らかに体感できるレヴェルである。
さすがにV8、5リッターともなれば1500rpmもあれば普通の流れに乗ることは簡単で、信号で頭を取にいってもせいぜい2000rpmという巨大なトルクを吐き出す。今日はあえて幾度となく3000rpmを超えるように踏み込んでみたが実にトルクフルでありその後、エンジンが滑らかに変身するのだ。しばらく続けていればきっと滑らかなフィーリングが戻ってくるだろうことは想像に難くないのだ(ウッシッシ)。
満タン方式での測定だったが燃費の向上は1.7倍。こりゃビックリである。
ついでに・・・初めて普通のGSにいってみた。「普通」というのはセルフではない事を指す。
アルバイトだろうか女性の店員が「店長、これ超キレー!すっごーい!」
店長「ふふふっ、これはね500SLといっずいぶん古いんだよ。80年ごろかなぁ?」
アルバイト「まじっすかー!ワタシと同じ歳くらい?チョーキレー!」
感じなかったのだが、どうやらSLの遮音性能はあまり良くないらしく会話が丸聞こえである。
嬉しいのだが、「チョー」を連発すのはやめてくれ。
それにしても、その子はじっとこのクルマを凝視していた。見えなくなるまで。ずっと・・・である。
茶髪だろうと「チョー」を連発しようと、このクルマの美しさを理解してもらえる人にはシンパシー感じちゃうもんねっ!
また給油に行っちゃお!
                 ・・・とマジで思った馬鹿オヤジなのであった。


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