身につかないレイバン
新しいモノを衝動買いする事はよくある。例えば、出先で急にスニーカーのソールがベロリンと剥がれてしまい最寄りの靴屋で新しいスニーカーを買った時など、これが自分のモノだという認識が確立するまで時間がかかるものである。欲しくて買ったものは別かもしれないが、毎日使う靴などは衝動買いした時の愛着の無さは特筆すべきモノがある。たとえば座敷の飲食店で食事を終えイザ靴を探しても習慣的に古いモノを探してしまいなかなか見つからないなどという事がある。・・・ボクだけだろうか?
そんな事があっても時間と伴に愛着が湧いてくるもので少しヤレた頃には身についてくるものである。先日、愛用していたナイキのエアマックス95がお亡くなりになった。グニャリとソール内のエアが抜けてしまいかなり情けない状況であったところにソールがベロリンチョと半分剥がれてしまって干からびたワニのようであった。がしかし・・・こんなボクでも、いやこんな僕だからこそかもしれないが、とうとう身につかなかった、というモノがある。それがレイバンである。
Ray Ban (レイバン)
つまり「光線の浸入を断つ」という見事にそのままのネーミングがついたサングラスである。日本語にすると「色付き眼鏡、その名も・・・遮光!」といったところであるが、このレイバンはサングラスの代名詞として世界中で愛用されている逸品であり今更説明するまでもないであろう。でも何故レイバンは世界制覇できたかというと昔のサングラスは外から目が見えないほど濃く着色すると視界も損なう事が多く、透過率だけを下げる事は困難であったがそれをやってのけたのがレイバンのである。
逸品好きのボクとしては「ふふふ・・・このレイバンね。もう15年も愛用しているよ」などとタバコの煙を吐きながらくたびれたレイバンをサッと外す。
エピソード1
そんな光景を夢みながら最初に買ったのは、大学一年生の春だった。金色のフレームにナス型グリーンのレンズ、ほとんど渡哲也の世界である。しかしコイツは購入後すぐにJRの車窓に置いたまま札幌駅を降りた。
エピソード2
夏っ!夏はサングラスである。今度は同じナス型でも黒いフレームに黒いレンズ。ちょっぴり渋めの西部警察である。海辺についた僕らはクルマの屋根に缶ジュースやハンバーガーを乗せ夕方の海を楽しんでいた。ややしばらくすると女の子達が花火をしようと持ちかけ随分と盛り上がり気が付くとすっかり暗くなっていた。友人が彼女との約束に遅れると慌ててクルマに乗り込み、ボクも家まで送ってもらったのだが、気が付いたらサングラスがない。ハンバーガーと一緒に屋根の上に置いたところまでは憶えている。
エピソード3
翌年の春、またまたサングラスが欲しくなった。結局の所、あまりサングラスがなくても困る事はないのだが、2つも失ってしまったのは気合が足りないという結論に達した僕は、新しいレイバンにチャレンジした。おなじナス型でも大型の黒でレンズとレンズの間の部分に丸のついたゴージャスなデザインのモノ。「よ〜し!これで、自分は・・・自分です」ほとんど大門警部の気分になったボクはじゃじゃ〜んと勢いよく自転車をこぎスーパーに買い物に行ったのだが勢いあまって歩道から降りる時の振動でサングラスが滑落。後輪でグシャリと音がした。当時のレイバンは全てガラスレンズ。重い上に割れ易いという欠点を持つ。
エピソード4
すっかりレイバン熱も冷めてしまった2年後の冬である。スキーヤー仕様のカッチョヨイレイバンを眼鏡屋さんの店頭で見つけてしまった!フレームとテンプルの付け根部分には革で出来た目隠しのようなモノが付いている。登山用のサングラスチックなノリである。ナス型のレンズはブラウンで上下からミラー加工が施されておりレンズ中央には左右にぼんやりとブラウンのラインが残っている。
「なんてカッチョヨイのだ」
僕のバカさ加減は、他の追随を許さない。早速22000円もだして購入した。歴代レイバンの中でも最も高価であり僕自身、清水の舞台から飛び降りる覚悟で買ったわけである。すっかり雪も解けてボクはレイバン生活を楽しんでいた。こんどこそ愛着が湧いてきた。僕のモノになった。そんな小春日和、友人とドライブへ。今でもシッカリと憶えているが、あまりのきれいさに「写真一枚取るからクルマ止めてくれ」。
いそいそとクルマの前に立ち旧市街地のバックに残雪のある山々をファインダーに。邪魔になったサングラスを外しボンネットの上において、3、4枚撮っただろうか。
「わり〜わり〜」を連発しながらクルマに飛び乗った。もちろんサングラスをボンネットに載せたまま。「あっ!」今回は幸運にもボンネットだったので発進するや否やすぐに気が付いた。友人もサングラスに気づきすぐにブレーキを踏んだ。
慣性の法則をご存知か?
レイバンはゆっくりと滑らかなボンネットを滑り落ち・・・ボンネットの先から姿を消した。
しかも慣性は自動車にも働くのだ。
クルマを飛び降りた友人は、右前輪の辺りを覗き混んで運転席に戻ってくるや
「よ〜し!ドライブだ!」
何事もなかったかのように勢いよくクルマを走らせた。
完