新聞広告でみつけた
『プロフェッサー・オン・ザ・ロック』
という一冊の新刊

文:グラン・マロン

アル中の現役大学精神科教授がシラフでは語れない・・・というエッセイ集である。
仕事柄、大学の精神科教授とは接触することがあるボクはいま、このまったく見当のつかない著者「ただ かいと」と称する人物を推察するゲームに興じているのだ。何故そんなことに没頭するのか?
それはつまり国内の大学において精神科には「TADA」なんて名前の教授は存在しないから・・・ではない。最初は単にそう思っていた。
 しかし読み終
えて、精神科の医師が、一般に理系である医師が、しかも大学の教授がこのような洗練されたエッセイを書き、出版している事に驚愕する。さらに、膨大な業務に忙殺されがちな大学教授の実状を一般の人間よりも少しは理解している僕から見るとローレンス・ブロックを引用したり、スクーバダイビングに挑戦したりする様など、大学教授の書物(カキモノ)としてはあまりに洒落がきいているではないか!
 「ただ かいと」の推察ゲームに興じているのは「こんなおもしろい教授と会ってみたい!」という単なる興味本位の探偵ゴッコなのだ。では、著者の「ただ かいと」とは、いったい何処の誰なのか?巻頭言からは現役の医学部精神科教授でアル中だということは判る。この
3つのヒントからはいろいろな憶測ができるが、まだまだHitする件数は膨大でありもう少し絞り込んでみたい。
 エッセイ集を一気に面白く読み終えたあと今度は、人物を特定するキーワードはないか?という視点で読み込んでみた。
「医科大学」「国立」「テニス仲間」「新横浜」というkeyが引っ掛かった。つまり、「医科大学」とあえて表現しているところを見ると○○大学医学部・・・ではなくて○○医科大学の教授であろうということである。そして「国立大学」とわざわざ書いている一説がある。これはご自身がひょっとして私立大学なのではないか?そんな気にさせる部分である。
 「テニス仲間」が引用されているが、それらの仲間と称される方々の職業などから推察すると地方ではなく少なくとも政令指定都市と考えられる。しかしながら、ある高級ウイスキーの価格の話で「銀座なら・・・」という一説から東京だと決め付けるのも難しい。
ところが・・・である。
 自宅から京都へ向かうのに、新横浜から新幹線に乗った・・・とある。これはとりもなおさず東京近辺に在住であり、且つ千葉・埼玉方面ではない事がわかる。僕も新横浜から新幹線に乗るのだが新横浜という駅、実は東京都下、神奈川県、
23区内のうち世田谷、杉並、目黒、渋谷、品川(最近は品川も停車するが)などの住人が利用する駅なのである。

しかし、その他に掲載されている家族構成、学会でのシンポジスト、留学先などの情報をドクターデータベースに入力
すると・・・あっという間に個人を特定するだろう。でも・・・そう気づいた瞬間に著者の推察ゲームはナンセンスだと思い始めた。
 仮に
個人を特定し、学会などでその教授に近づき・・・
「あなた・・・ただ かいと さんですね?」などと、耳打ちしたところで奇妙な視線を向けられるのが落ちである。
 このエッセイの楽しみ方はそんな部分ではないのだ。

ところで、この本を読み終えると「かなり洒落た自伝」であることが判る。著者はそのつもりではないかもしれないがボクはこの手法をとても洗練されていると感じた。
どうでもいい事だが、これを読み終えるとクラッシュアイスに
WHISKEYを注いでグイッと飲みたくなるから不思議である。
コンビニエンスストアでクラッシュアイスを購入し、いつもの安いシーバスをバカラのグラスに満たす。
こいつを読みながらの一杯目。
*「それは冷たく熱くじわりと胃袋を刺激」したのである。
秋の夜、こいつは御勧めである。
もしこの本を手にしたなら・・・
ちょっといいウイスキーとクラッシュアイス、そしてちょっとだけ贅沢なグラスを用意していただきたいものだ。
この本があればツマミはいらない。


*
プロフェッサーオンザロックからの引用




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