なんとなく世界最速のたたずまいは、それ独特の雰囲気を醸し出しているものの、真正面の顔はなんだか…魚のようである。とりあえず肉食獣にはとても見えない。

一見、車体は“小振り”のようだが、スクリーンを交換している事もあって前投影面積は大きい。体でタンクを支え、サイドスタンドを跳ね上げるために車体を起こす。垂直に立っている状態では思ったほど重いものではない。しかし左右に揺するには少々勇気がいる。車体を地面から90度に保ったまま、慎重に跨る。170cmではつま先が軽く接地する程度だがとりあえずこの姿勢は、平均的な体躯の持ち主ならさして苦にはならないだろう。カウルの造形はサメのようでありハイテクなシャープな曲線で構成されている。ハンドルから手を離し、体を起こそうとした時に思いのほかハンドルが前方であり前傾を強いられている事がわかるが、「遠いな」とは思わない絶妙な位置である。跨ったまま後退しようとするが、フロントサスの反動を利用してもなかなか上手くいかない。座面があと数cm低ければ、いやあと数cm足の長い人ならば非常に良いポジションであろう。

 

エンジンに火をいれる。

キーをひねるとタコメーター・スピードメーターが一度フルスケールまで動き元の位置に戻る。その間、右側のデジタル計器は全てのドットが表示されランプが点灯する。

あたりまえの事だが、短いクランキングでいとも簡単にエンジンはかかる。いつまでもブリッピングしたくなるような小気味良いレスポンス。小気味良いわりには荒々しくズ太いエグゾーストは振動を伴ったものであり強烈に気持ちヨイ。アイドリングのままゆっくりとクラッチをつなぐとスルッと動き出す。すぐにクラッチを切って2〜3m転がすと、抵抗のない硬質な乗り味を感じる事ができるそれは、まるでレールの上を転がる列車のようなフィーリングである。

 

駆る

注意しなければならないのは、速く走ろうと思う場合は「いかに全開の時間を長くするか」がポイントになるのが普通だが、こいつは違う。「どれだけ全開に近づけられるか」である。

乗り方は400ccのレーサーレプリカと同じであるが、高い回転数をキープするのは至難の業になってくる。なぜか?それはスピードのレンジが高すぎるからであり、すなわちアクセルの開度でいうと切り返しの多いコーナーでは体重移動をこなしながらコンマ・ミリ単位の操作が必要になってくるということである。例えば低速コーナーを80km程度で旋回する場合、5速4000rpmになるが4速、3速にすると6000rpm〜を使う事ができる。しかしこの領域はアクセルを「捻る」などという領域ではない。うっかり捻ってしまうとリアのスライドを誘発させる。立ち上がりでうっかり捻ってしまうとバンクしたままフロントホイールがリフトしてしまう。2速8000rpmの領域になると平坦な直線道路でも一定の速度を保つのが困難なアクセルレスポンスをしめすのだ。

峠道程度ではこのパフォーマンスを発揮できずドイツの高速サーキット位の規模がないとなかなか使いきれる代物ではない。峠は絶対に6Rの方が面白いに決まっている。高速道路なら9R。では12Rはというと…所有満足感ということになろうか。渓谷を縫うように飛行する撮影隊がセスナで飛行するのは気持ちイイのだが、それがF15戦闘機だったら・・・と、こんな感じに近いのか?よく12Rは高速道路で無敵といわれる。確かに無敵ではありそうだが実のところ巨大な敵が存在する。とにかく「恐怖心」と戦わなければならない。そして同時に湧きあがる「高揚感」とも。これらは一見相反するものだが12Rに乗っていると恐怖心は逆に気分の高揚感につながり易いのだ。つまり、あまりの速さに恐怖を憶えるということは、自らの心をコントロールできていない事である。そのアンコントロール状態が高揚感、つまり興奮・陶酔へとつながってしまうのだ。

 

走り・・・休憩?                                                 

しばらく激走した後、ちょうどガソリンも物足りなくなったのでPAで休憩である。食うわ食うわ!1Lあたりの走行距離は約10kmである。高速道路だけなら15L程までのばす事は可能だが、とにかく大食いである事に変わりはない。タバコを吸って・・・もう一本吸って、すっかり冷めてしまった缶コーヒーの最後の一口をすする。きれいなチタンの焼け色に触れようとした瞬間「あちっ!」マフラーはまだ冷えていない。あの恐ろしく熱い熱風を放出する内燃機関は思いのほか熱を貯め込んでいるのだった。走行直後は、ハッキリ言ってサイレンサーの上で焼肉ができるが、焼き肉するにもやや火加減は強すぎ、12Rのそれは中華の炒めモノをするのに打って付けだろう。

 

スレイプニル。

それはオーディンの愛馬。オーディンとは神の中の神。God of godである。そんな彼が飼っていたのは、灰色の8本足の馬である。物凄いスピードで空を翔ける悪魔の馬なのだ。死の馬とも呼ばれ人々が恐れていた。我が愛車にぴったりの名前である。死ぬほど速く、死に導く不思議なチカラを持っているからだ。臆病な人は、死んでしまだろう。しかしオーディンにとってはすばらしく優れた馬なのだ。オーディンになったろうかい!という心意気でないと12Rのオーナーにはなれない。乗りこなせるかな〜などと思いながら駆っていると死ぬ目に会うだろう。

こいつは本当の男のバイクである。

私の愛車はスレイプニル。

死の馬・・・

飼い馬に手を噛まれるようなヘマはしない。何故なら、俺は死の恐ろしさを知っているから。

奢ることなく、真剣にこの鉄馬と向かい合っているから。

そして・・・お金かかっているから(^^;