キャラクター:服之冷 一郎(ふくのれい いちろう)
このあいだ凄い音で背後を駆け抜けたフェラーリがいてさ。軽い渋滞続きの国道だったからストレスが溜まってたんだろうな。おとなしくしてたら、たまたま信号の先頭になっちまってとどめに綺麗なネーさんが信号にでもいたんだろう。たった200m程の直線で歓喜の雄たけびを上げたってとこだろうと思われる。オイラは振り返らずとも、とても状態の良いフェラーリだとわかった。振り返ると新車のような紺色の360モデナだったんだな。これはモデナが良いとか、オイラは音で車種がわかるんだ!なんつーレベルの低い話じゃないんだよ。物事っていうのは本質を理解できればいい。それだけだ。
さえ、本題に入る。音!「いい音だね〜」なんていってるけど色々有るんだな。大きくは2種類。まずはドライバーズシートに座っているのと傍から(車外にいて)聞こえてくるエンジン音の2つ。
今回の話は傍から聞こえるエンジン音の話だ。
なぜなら車内の音はフェラーリのように吸気音をさせたり、カムギアの高周波を響かせたり、時にはパルスをあえて拾ってオーディオのスピーカーから出す場合だってある。これらは気持ちよく運転させる為の『必要』ではあるが所詮小手先のギミックだ。工学部を卒業した新入社員でも作ることが出来る程度の仕掛けである。だからオイラは車内で聞こえる音なんて興味は無い。でだ、問題はエンジンの音だ。
エンツォ・フェラーリが生前こだわったV12型エンジン。F1のレギュレーションが変わってせいぜいV10までと言われた時代にも、あえてこだわった12気筒だ。ジャン・アレジ(ゴクミの旦那)が勝てないフェラーリ時代の代表的ドライバーだが、少なくともシューマッハのドライビング・テクニックでさえも勝てるエンジンではなかっただろうと勝手に思っている。それは当時のレギュレーションが、3000ccのノーマルアスピレーションかもしくは1500ccだったか1600ccだったかの過吸気付きだったと記憶しているが・・・ホンダにとって過吸気、つまり「ターボ」は、お家芸だから選択の余地はあっただろうが、フェラーリにとって、ターボなんてほとんどやっちゃいないので当然3000ccとなる。この排気量が意味するものは12気筒じゃ12回祈祷したって勝てねぇって事だ。
なぜかっつーとな、一気圧環境下(大気圧下)でレシプロ内燃機関、つまりシリンダーで爆発した力をピストン、クランクと伝える方法をとるエンジンだと1つのシリンダーは350cc〜450cc位が一番効率が良いという理屈はカールベンツの時代から解っていることなんだ。(スチームエンジン・・・つまり機関車の場合はデカけりゃデカいほどパワーがでる。)
レシプロの素材は現在、軽量合金か鉄だな。そこでだ、極端に言うとあまりにデカいシリンダーじゃ爆発力がピストンの重量に負けちまってクランクを回すことが出来ないし、小さいピストンじゃ爆発力に耐えられなくなってコンロッドが潰れるんだな。ココまでは凡人でも理解できるだろうけど・・・。つまりデカいピストンとは、排気量に対してデカ過ぎるということで50ccなんかの小排気量単気筒エンジンを指す。小さいピストンとは逆に1000cc級の大排気量単気筒エンジンを指すんだが・・・これが理解できないようではエンジンが理解できないだろう。*諸君わかるかなぁ?
<注釈 *: あくまで、福之冷 一郎 先生のセリフです>
さて、ちょっと話が前後するがでかけりゃ良いってもんじゃないことはわかったと思う。しかしもうひとつ重要な要素がある。エンジンは皆、単気筒じゃない。エンジンはそんなシリンダーが複数並んでいる集合体だから・・・更に突き進んでいくが、いいかい?
3000ccの12気筒はエンジン出力に対してピストンの摩擦が大きすぎて無駄が多くなるんだな。つまりひとつのシリンダーっつー話じゃない。一つ一つは、まずまずだがそれが12個も並んじゃうと色々と厄介なんだ。
一つ一つが高効率なら、何個つなげたって良いのでは?なんて思ったヤツはおいらの話を理解している証拠だが、そうは問屋が卸さねぇんだ。何故ならクランクやメタル、カムなどの複数のシリンダーで共有するパーツがでかくなっちまうんだ。簡単に言うと50ccの単気筒はアリだが、50cc×10気筒の500ccエンジンは力がでないだろうということは想像できると思う。もともとレシプロエンジンはエネルギー変換率が悪くてガソリンを100入れると30くらいの出力しか出さないから効率を追求するのは至極当たり前のことなんだな。
当時の3000ccF1が軒並みV8やV10だった理由が理解できたかい?ちなみにR32のGT-Rは2.6Lという税制上とても半端な排気量だったが1気筒あたりの高効率シリンダーを最も滑らかにまわる6気筒にすると自ずと2.6Lになるというわけだ。だからあのエンジンを入手してボアアップしたりして自慢していると開発者の苦労と汗を理解していないボンクラ扱いとなる。もちろんボアアップしなければならない理由があれば全く別の話だ(タービン替えたとか・・・etc)。
・・・で、そうそう本当の本題は音だったな。つまりエンツォ・フェラーリは上記の理由から性能ではなく音、フィーリングにこだわった結果だったと思う。本人に聞いて見なけりゃわからねぇが、フェラーリがエンジン・オンチだったとは考えられないからオイラの考察は『エンツォは音にはうるさい』だ。つまりすべてにおいて演出家だったんだな。
音ってーのは周波数とその波形が構成成分だ。この2つのファクターがどう絡み合うかだが、まずは周波数について講義してやろう。
周波数
時報のピ・ピ・ピ・ポーン・・・って知ってるだろ?あれは「A」という基準音、つまりドレミのラの音なんだが最初のピピピが440Hz、後のポーンがオクターブ上の880Hzなんだな。大事だからこの感覚を覚えておいてほしい。
周波数ってことは一秒間に何回音が振れるかだ。エンジンはバルブから圧排出される時の「パンッ」という音の集合体だから基本的には一秒間に何回「パンッ」っつーかが周波数つまり音の高低にかかわる。
こっからは難しいぞ!しっかり読めよ!
1800の4気筒エンジンが限界の6000回転まで引っ張ると・・・4サイクルエンジンは4回転で一回の「パンッ」があるだろ。けど4気筒なら毎回「パンッ」を発生させることになる。つまり6000回転は6000RPM(1分あたり)だから一秒なら6000/60で100Hzになる。100Hzは通常「男の声」といわれている音域だ。実際はココに倍音だとかメカノイズが加わるので単純ではないが基本はこうだ。
一方、12気筒エンジンが12000回転で発する周波数は、クランク1回転あたり「3パンッ」だ。12000を60で割ると200だから200×3で600Hzにもなる。これはソプラノ以上である。エンジンの爆発音がピアノの基準音「ラ」よりも更に高い音だとしたらどんなに美しいか・・・ということだ。
波形
波形は実はどうでもいいんだ。なんつーと叱られるかもしれないが、実際どうでもいい。だってピアノの音が好きな奴もいればギターの音が好きな奴もいる。だからどうでもいい。つまりストラディバリの倍音をどれくらい含むか〜なんて話じゃないんだ。でもな、いい楽器とそうでないものとの違いは大きい。ギターだって安いのと高いの、ジャリ〜ンと鳴らせばたちまち違いがわかる。それは何か?それは粒の揃い方なんだ。ギターの弦を1本づつ違う素材のものにしたらどうなるか?それは良し悪しの区別が付かなくなる。音の粒が揃っていないからだ。
俺達ミュージシャンは(いつからだ?)『デッドポイントが無い』なんて事を言う。音が死ぬところが無いんだ。粒が揃っているんだな。どの弦でも、どのポジションで弾いても安定して同じ音がでるんだ。これがいい楽器というものだ。
まるっきり想像だがフェラーリのエンジンは12あるどの排気ポートやバルブあたりを棒の先で叩いても同じ音がすると思うんだ。そう言うと『ドイツのエンジンはバルブの精度は高くてバラつきも少ないのに何故・・・?』と思った奴は見込みがある!実は重量や形状を揃えるだけでは同じ音にならない。どうしてかというとエンジンブロックの中心に近いところと端の方では振動特性に違いがある。さらに補器類やエンジンマウント、クランクのメタル・ベアリングの位置も影響するだろう。部品の精度が上がれば同じ音がするとは言いきれないのだ。フェラーリは一台一台の調律に大変な労力を費やしているに違いない。全くの想像だが。
リジットマウントされたハーレーがV2で1450という排気量でドッドッドッ・・・と低い音で走る事・・・
400ccの等長集合管つけたレプリカが14000回転でジェット機みたいな音でかっとぶ事・・・
アメリカの8.0L、V8がドロドロしたフィールである事、12気筒のイタリアンスーパーカーは軒並み5000cc程度である事、全て物事には理由があるんだな。
そんな風に車の成り立ちを見るとそれもなかなか楽しいものだ。