THE BAG
Text : Gran Marron 2003 18 Jun
カバンカバンカバンカバン・・・?
繰り返すとなんとも不思議な言葉。カタカナになっているという事は外来語である。
キヤバンという中国語で、革で出来た小物を入れるケースを指す。キヤバンとは「夾板」と書く。つまり「挟む板」という意味である。
日本語になる時に風呂敷のイメージからか「包む」という字が当てられて「鞄」となったのだろうと推察できる。
それにしても「挟む板?」・・・これだけはどうもイメージが湧かなかったのだが、アタッシェケースを思い出し納得がいった。
アタッシェは確かに板を合わせた形状である・・・とか言っているうちに、「アタッシェ?」これんなんだ?という事になった。
“attaché”
これはアタッチ(添付)という意味かと思いきやフランス語で「外交官」や「派遣大使館員」を意味するようである。きっと彼らが好んでこういった形状のドキュメントケースを使っていたに違いない。
ボクの愛用鞄は、ビジネス用にもっぱらTUMIを使用している。小型のドキュメントケース、中くらいアタッシェ、大型ボストンにコンピューターバックパックである。少々高いのだが軽くて頑丈な作りと黒一色のデザインは、あらゆる局面を無難にこなし、ほとんどの状況に対応できる。しかも空港でTUMIをバッゲジキャリアーにわんさと積み上げ「これがホントのTUMI(積み)重ね!てへっ・・・」なんて骨折しそうな駄洒落も言える。
長期の旅行や出張用には、キャスターの付いたバッグがいいのだが、TUMIのピギーバッグはあまりに高価な為、ドイツの名門RIMOWA製ポリカーボネイト・キャスターバッグ、「大」と「小」を愛用している。これはコストパフォーマンスが非常に高く、これからキャスターバッグもしくはスーツケースの購入を考えている方には最もお勧めの一品である。特大・大・中・小の4種だったと記憶しているが、大小2種類あれば2泊〜7泊まで対応できる。
今でこそ出張も多くバッグライフは充実したものであるが、10年ほど前のボクはたった2つのバッグですべてに対応していた。しかしこの2つのバッグは、最も気合を入れて購入したモノでありボクにとっては宝物である。ではこだわりに満ちた2つのバッグを紹介しよう。
PROTEX
今、どこで買えるのかはわからないが生産は続いているようである。
何故、それがわかるかと言うと理由は簡単、映画に出てくるからだ。アメリカ映画の特に軍隊のシーンで見かけるのだが、最近の記憶ではロストワールドを始めとする恐竜系映画などで、よくみかける。映画の中でのそれは、軍事兵器の輸送に使われているから「準備が出来たら出発だ〜」なんてシーンによく出てくる。
事実、税関でのこと「Hey!ジャップ、こいつは核爆弾かい?」
などと陽気な黒人旅行者に言われた事がある。地元民とのコミュニケーションのきっかけにもなるほど、いかにも「ロケットランチャー」や「ミサイル」が収納されている雰囲気はなかなかオツなものがあるのだ。サイズは一枚ドアの冷蔵庫級で見るからにゴツイ「リブ」は高い耐衝撃性能を物語っている。また機密性も極めて高く強烈にヘビーディーティーな佇まいは空港でも街中でも目立つ事うけ合いで、男性が下手にルイビトンのスーツケースでキズを気にしながらおろおろするよりも、コイツをラフに扱いイス代わりに使ったりするほうがずっとカッチョヨイと思う。カラーバリエーションはいくつかあるが僕の愛用していたものは極めて初期のグレー。バリバリの軍用といった趣である。当時78000円也!
Zero Halliburton←Webへ
通称「ゼロ・ハリ」。もう解説の必要はないほど有名なケース。アポロ計画で月の石を持ち帰ったのもゼロハリのケースである。高圧で圧縮したアルミを使ったシェルは頑丈そのもの。見た目はアルミなのだが恐ろしく硬い。
腐るほどある逸話は、語るのも今更という感じでありライターでいうところのZippoに近い。僕にしてみると「小学生になったらランドセル」、「社会人になったらゼロ・ハリバートン」と何の疑いもなく思い込んでいたふしがある。当時、「エグゼクティブ」シリーズと「クラシック」シリーズに2ラインナップであった。せっかくならという事でエグゼクティブ・ラインを選んだ。グラファイトというカラーで内張りはピッグスキン、15年ほど前のモデルになるので現在このスタイルは既に無いが、なんといっても耐久性は特筆すべきモノがある。アウターシェルこそ細かなキズがついているが、なにしろ内装は全く痛んでいない。とても昭和のモノには思えないだろう。
僕は幸運にも「ZEROで助かった〜」といった思いをした事がないので身にしみて力説できるエピソードは無い。89000円とかなり高価な鞄だが今でもどうどうと「キメ」のシーンで活躍してくれるし、話題に困った相手などが「ZEROですか・・・」とふってくれる事で話しをスムーズにすることができる。フッと髪をかきあげ渋めの声で「ええっ・・・ZEROなのでやんす」という瞬間がとってもワンダホーなのだ。
「ZEROの欠点は?」と聞かれたら「無い事は無いが・・・コイツのステイタスや歴史がすべて覆い隠してくれるよ。わっはははははは」
・・・と腰に両手をそえて答えてみたいものだが、実際は肩をすくめ、両手の平を空に向けて「所有満足感やステイタスでは陵駕しきれないほど欠点だらけさ!」となる。
どんな欠点かというと「重い」「硬い」、単純そうだがこれが厄介なのだ。小さなハンドルは確かに恰好良いが、あの重量級のアタッシェに普通量のドキュメント、名刺、携帯、財布を入れると10分で手がしびれてくる。
剛健なハンドルは重量級のボディーを見事に指の付け根に集中させ血流を遮断してくれる。うっかりすると指が腐るので注意が必要だ。そこで右から左、左から右に持ち変える時、第二の問題点「硬い」が浮き彫りになる。
ソフトバッグと違い頑丈なボディーは変形や融通を許さない為、気合の入った四隅が容赦なく膝や脛(スネ)に直撃する。したがってできるだけ体の遠くでカバンの持ち変えをするのだが、硬さを示すこんなエピソードがある。
新宿の駅で先を急いでいたであろう小走りのお兄ちゃんが、すれ違い様にしゃがみ込んだ。物凄い形相でスネを擦っているであろうことは、小さくしゃがみ込んで細かく震える後姿と、ボクの手への衝撃で簡単に想像がついた。重量のある鞄は慣性モーメントが小さいので、どんなに勢いよく当たってきてもZEROを掴んでいる右腕が後ろに振り上げられる事は無い。
・・・かなり痛そうであった。・・・ボクちゃんは悪くない。